『構造をみる』を書いた理由 — 著者メッセージ
刊行予定の『構造をみる』。なぜ今、この本を書くのか。著者からのメッセージ。
書きたかったわけではない
正直に言うと、本を書きたくて書いたわけではありません。
十年以上にわたって、経営者・起業家・表現者の意思決定に伴走してきました。その現場で起こっていたこと、クライアントと共有してきたこと、自分自身が悩みながら磨いてきた手法。これらは、長いあいだ、表に出すべきものではないと考えていました。
理由はいくつかあります。
まず、一対一の関係のなかでのみ、本当の深度に到達できる、という実感があったからです。言語化して一般化した瞬間に、失われてしまう繊細さがある。個別の文脈を無視した技法は、誤読されたり、誤用されたりしやすい。
次に、私の仕事は、結局のところ手法ではなく「人」で決まる、という確信があったからです。同じ手法を他の人が使っても、同じ結果は出ません。ならば、手法を本にする意味は限定的ではないか。
最後に、言葉にするのが難しかった、という単純な理由もあります。
それでも、書くことにしました。いくつかの考えの変化があったからです。
伝えなければならない理由
一つは、経営環境の変化です。
VUCAと呼ばれる時代のなかで、意思決定の難しさは増しています。AIによる情報処理は進化していますが、最終的な判断──とくに人と関係に関わる判断──は、依然として人間の領域です。そして、多くの経営者が、この領域で孤独に迷っています。
もう一つは、私の役割の限界です。
一対一で関われる人数には限りがあります。顧問として伴走できるクライアントは、年間数十社が上限です。しかし、同じように判断に迷い、孤独に向き合っている経営者は、もっと多くいます。その方々すべてに直接関われるわけではありません。
であれば、少なくとも視点だけでも届けられないか。
手法そのものを引き継ぐことは、本では難しい。しかし、「こういう見方がある」「こういう層がある」「こういう構造で判断できる」という視点は、言葉で伝えることができます。完璧な継承はできなくても、出発点は提示できる。
それが、書こうと思った最大の動機です。
この本で伝えたいこと
本書『構造をみる』は、大きく3つのことを伝えています。
人を多層的に捉えるということ
能力や肩書きだけで人を見るのではなく、生まれ持った傾向、育ちのなかで形づくられた価値観、現在の状態、他者との相互作用、という4つの層で捉え直す視点。
直感を、構造に変換するということ
優れた経営者が「なんとなく」と表現する判断を、どう言語化するか。属人的な直感を、組織として共有可能な構造に変えていくプロセス。
最後に決めるのは、常に自分であるということ
どれほど精緻な分析をしても、判断の責任を外部化することはできません。構造を見る視点は、判断を楽にする道具ではなく、判断の深度を上げる道具です。
この3つのテーマを、実際の経営現場での事例とともに、読み進められるように構成しました。
誰に読んでほしいか
特に、次のような方に読んでいただきたいと思っています。
中堅企業のオーナー経営者。事業の規模が拡大していく過程で、「人選と組織」の領域に本気で向き合う必要が出てきた方。
上場準備・M&A・事業承継に向き合っている経営者。組織の構造的な転換期に、どこを見て判断すべきか、視点を整理したい方。
VCやM&Aプレイヤー。投資判断や買収判断のなかで、定量では測れない「人と関係性」の領域を言語化したい方。
そして、経営者・起業家・表現者として、自分自身の判断の質をさらに上げたいと考えているすべての方。
読んだからといって、翌日から別人になるわけではありません。しかし、見ている世界が、ほんの少し変わる。その「少し」の積み重ねが、長い時間のなかで、判断の質を決めると、私は考えています。
最後に
『構造をみる』は、私自身の十年以上の研究と実践の、現時点での到達点です。 同時に、次の十年に向けた、新しい出発点でもあります。
この本を手に取ってくださるすべての方が、ご自身の判断の深度を、少しでも上げるきっかけになることを願っています。
合同会社Humanomy 代表社員 寺地 柾人